2012年3月 10年通院した秋田市立総合病院から紹介状をいただき、市内山王中園町で開業している「本間医院」にかかりつけ医としてお世話になりました。
受付を終え、診察の番が来る頃、中待合に呼ばれます。診察室に入る壁一杯にいろいろな文章が貼ってある。患者さんの多くは、自分の病状がどうなのか一抹の不安と、気を休めるよう何かをまさぐるものなのですね。
通院の回を重ねるにつれ、気にかかっていた文章類を僅かな時間の中に目を走らせました。これは本間先生の自らの「健体康心」
この文章は、一般財団法人 秋田経済研究所の刊行物・機関誌「あきた経済」のコラム欄に出筆されている原稿とわかりました。
本間先生の「み心」を少しでも多くの方へ伝えたく、先生の承諾を得て、当ホームページでも掲載させて頂くことになりました。
時折 原稿を紹介して参ります。 (2012.7.28) 小倉孝昭
健康シリーズ コラム
●“走る”ということ
●“眠る”ということ
●“アンチエイジング(太らない)”ということ
●“インフルエンザと闘い続ける”ということ
●“安全にマラソンを走る”ということ
●“善きサマリア人の法”
〜走るということ〜 ●健康シリーズ・・・・・本間 真紀子(本間医院 院長) |
今年も2月27日、晴天の空の下、東京マラソン2011が開催されました。合い言葉は、東京が1つになる日=B石原都知事のピストルの合図で、車いすランナー、次いでマラソンランナーがスタートし、日頃車で埋め尽くされている東京都心は約36,000人の市民ランナーと10,000人のボランティア、216万人の温かい声援を送る観衆で埋め尽くされました。 最近マラソン熱がとても高まっています。秋田でも田沢湖マラソン、100キロマラソン、秋田国際ファミリーマラソン、日本海メロンマラソンなど、多くの大会が催されています。 では、人はなぜ走ろうとするのでしょう。忙しいと言いながら、わざわざ時間を工夫して、長い距離を…。 すでに走っている人は、走るメリットを口々に語ります。アイデアがわく、元気になる、前向きになれる…。 体脂肪が減り、心肺機能が高まるのは、科学的に理解できます。しかし、メンタルな世界にまで効くという裏付けはどこにあるのでしょうか。仏教の世界では、走ることは禅を組み、瞑想の世界に身を置くことに等しいと言います。経営者は、走るとすべてが効率化する。思考が健全になると言います。 はたして、走ることにより体や脳の中には何が起きているのでしょうか。 脳の研究によれば、 前頭前野:時速3kmのゆっくり歩行では脳の運動野が活性化をはじめます。少し早足になって時速5kmになると、その横の運動前野が続きます。そして時速9kmを超えるランニングで、更に広がって前頭前野が活性化を始めるのです。この前頭前野、実は人の思考や学習を司る重要な部位ですが、前頭前野が走ることで活性化されるということは、脳にとって走ることと考えることとが同義語≠ニいうことなのです。走ると考えがまとまる=Aアイデアが湧く≠ニいう人もいますが、それにはこういった裏付けがあったのです。更にこの前頭前野は社会脳≠ニも呼ばれ、社会生活をするのに必要な脳機能も備えています。意欲向上・集中力・計画性、そして何よりも相手の気持ちを理解する中枢でもあります。言葉で理解することも大事ですが、何も言わなくとも相手の本音を推し量ることができたら、コミュニケーションスキルは格段向上し、生活や仕事がスムーズに展開されることとなります。 セロトニン:セロトニンは、情緒の安定・平常心の維持・姿勢の保持・痛みの軽減、など、元気で楽しく生活できるしくみに多方面にわたって関与しており、脳幹の縫線核から分泌される神経伝達物質です。スロージョギングに代表されるようないわば疲れない走り方、すなわち心拍数にすると毎分120くらいまでのペースで5分くらい走ることでセロトニン分泌がはじまり、10分から15分で安定した状態になります。実際には、かっと興奮せず、心の平静が保て、舞い上がったりストレスで落ち込んだりした状態の復元力を高めてくれます。不定愁訴的な痛みも和らげてくれるといったすぐれものです。運動に話を戻しますが、セロトニン分泌には疲れないように走ることがこつですから、疲れが出てきたところでやめても、十分恩恵を受けられることになります。 βエンドルフィン:ランナーズハイ=A長距離ランナーが走り続けていると、急に気分が良くなり、どこまでも走り続けられるような爽快な気持ちになる現象をいいます。これは神経伝達物質の1つであるβエンドルフィンが脳下垂体から分泌されている状態です。モルヒネの6.5倍の鎮痛作用・多幸感・社会的安定感等をもたらすと言われています。実際にはかなり走ってからでないと味わえない上級編になり、だからこそ走るからには経験したい境地の1つでもあります。 自律神経:人間には自律神経と言われるものがあります。これは、交感神経と副交感神経で成り立っていて、交感神経は、体を興奮の方向に働かせる神経、副交感神経は、安静の方向に働かせる神経です。そして両者のバランスは、3対2程度が理想と言われています。けれども、強いストレスや力が入り過ぎると、これが5対1くらいになってしまいます。たとえば、急いででかけようとしたら家の鍵が探せなくて手こずり、その後あわてて車に乗ったら塀にぶつけてしまった、というような感じです。この自律神経、自ら操作することはできないので、何かを通じて調整することになります。そのひとつが運動です。身体の声に耳を傾け、自律神経の乱れを感じ取って、ベストパフォーマンスを得られる方向へセルフコントロールすることも、運動で培われるのです。 実は、筆者は今年幸運にも東京マラソン 2011≠ノ出場できる機会を得て、新宿副都心から日比谷公園までの10kmコースを、楽しく走らせて貰った36,000人の1人でした。昨年からはNPO法人日本医師ジョガーズ連盟(ジョギング・ランニングを愛好している医師の全国組織)にも入会しました。市民の健康増進を目的に、医学研究、著書を発行している会です。その会の趣旨:人々に健康のため生涯スポーツが必要と説いても、医師自らが運動を実践していなければ説得力に欠けます。‘遅いあなたが主役です’なる言葉を掲げ、競争として走るよりもマイペースで遅く走ることを勧めている会でもあります。 でも、走ることを始めたのはひょんな切掛けで、しかもごく数年前から。恥ずかしながら、中学時代たった2kmのマラソンや高校時代歩くコースありの太平登山でさえ、どうやってさぼろうかと口実を考えていた頃もありました。でも今では、日常生活でも歩く・走る・階段を駆け上がる、などのフットワークが格段に良くなり、おかげで病気知らずで過ごしています。そんな筆者がめざすもの、それは、仕事上では未病予防=Aそして個人的には還暦でのフルマラソン完走≠ナす。この冊子をご覧頂いている皆様と、近い将来運動で汗をかける機会を楽しみに…、これから続く健康シリーズの巻頭言とさせて頂きます。 |