〜アンチエイジング(太らない)ということ〜

●健康シリーズ・・・・・本間 真紀子(本間医院 院長)

 エイジングとは、多くの因子が関与した非常に複雑な生命現象。時間をかけて生体の機能が失われていく状態で分子メカニズムの解析も精力的に行われています。しかしその詳細はいまだ不明な点が多いのです。一方で、アンチエイジング・健康長寿を勝ち得た人々" 、に共通して言えること、それが以下の4項目です。

 1,太らない 2,血圧を低く 3,血糖を低く 4,タバコを吸わない

 あらためて人類の歴史をひも解いてみましょう。およそ数百万年前、猿とヒトの間の猿人から直立二足歩行に移行した原人が誕生し、私達の先祖である新人(ホモサピエンス)へと進化しました。新参者の人類は、陸上に生息する哺乳類としては、なんとも弱々しい存在でした。毛皮をまとわず、運動能力も劣り、夜目も利かない。必然的に脳細胞を駆使して火を焚き、動物の骨や石から道具を作り、言語を生み出しました。それにしても生きるのに過酷な環境は相も変わらず。日々を生き延びるためには、まずは食糧確保です。競争に敗れれば、弱肉強食の脅威にさらされ淘汰されていく過酷な現実。人類はそんな逆境でも何とか生き延びてきました。そしてそれを可能にしたのが、何を隠そう脂肪の存在だったのです。

 脂肪の主な役割は3つ

 1,大事な臓器を守るための衝撃吸収
 2,体から出来るだけ熱を奪われないようにする断熱材
 3,エネルギー貯蔵庫としての働き、が最大にして最重要の機能


 これらは食餌で得たエネルギーの余剰分を脂肪に変えて確保することからはじまります。脂肪細胞は容積で通常サイズの数百倍まで膨張できます。この重要な貯蔵庫にしっかり蓄えて、食料がないときは、ちょっとずつ切り崩して使えばいいのです。しかも脂肪1g当たりのエネルギーは9キロカロリー。同じ重量で糖質やタンパク質の倍以上のエネルギーを貯蔵することができるので、非常に高率が良いのです。この能力を勝ち取ることで人類は生き延びてきました。そう、現代人が脂肪を持て余すようになるまでは。

 Aさん(68才、女性:糖尿病治療中)

 2007年に81s台だった体重が、膝の大病で運動がままならず、そうこうしているうち100sを超えることに。1種類から4種類へと増えたお薬の甲斐もなく、体重と並行して徐々に血糖が増加してしまいました。
 
 太っている方の方がそうでない方に比べて、いわゆる生活習慣病に陥りやすい。それがなぜなのかは長らく謎のままでした。ところが1994年、食欲をコントロールするレプチンを皮切りに、脂肪細胞がさまざまな生理活性物質を分泌していることが分かりました。なんと驚いたこに、脂肪はただのエネルギー貯蔵庫ではなかったのです。この中には血管をきれいにして高血圧症や糖尿病といった生活習慣病のリスクを減らしてくれる善玉のアディポネクチンもあれば、逆に血圧を上げるアンギオテンシノーゲン、血栓を作る PAI-1、炎症を起こす TNF-αなどの悪玉もあります。内臓脂肪が増えすぎなければ、良い働きをする物質が活発に働き、内臓脂肪が増え過ぎると、不都合な働きをする生理活性物質が増え、良い働きをする物質の分泌は減ったり働きが鈍くなったりします。つまり、内臓脂肪がたまることによって、これらの悪玉物質が糖尿病をはじめとする病気を誘発しているらしいということがわかってきたのです。
 
 Bさん(51才、男性:高血圧症治療中)

 2年前に秋田に転勤となり、当院での治療を開始しました。当初は糖尿病を含めて5種類のお薬を服薬していました。家族歴では、父が高血圧症と脳梗塞を患い、治療中とのことでした。しかし、2年後の現在では、体重が 97sから 80sとなり、お薬が5種類から1種類に減量でき、併せて禁煙にも成功できました。

 秘訣は何だったのでしょう?

 Bさんからは次のような答えがかえってきました。

 1,以前は飲み会で夜遅く帰って、そのあとでご飯を食べていたが、最近は1次会で帰るようにした。
 2, 21時までに夕飯を終えることを心がけた。
 3,週4〜5回、朝または夕に1時間散歩をした。
 4,洋食から和食に変えた。
 5,50g単位の体重計で毎朝体重測定し、カレンダーに書き留めた。


 このような経験は、誰しも少なくとも一度や二度はおありだと思います。本人も、別に大したことをしているわけではないと、さりげない口調で話されました。しかし、言うは易く行うは難し、生活習慣病といわれる所以がそこにあります。 Bさんは、まずは生活習慣を変える一歩を踏みだし、それを2年以上継続できたことこそが、健康を手に入れた一番の妙薬だったといえるでしょう。その後、 Aさんの膝は快方に向かいつつあり、食事療法と併せることにより血糖も徐々に改善しつつあります。要は、意識して行動に移した時、体はきちんと反応してくれるということなのです。

 2005年日本内科学会など8学会がメタボリックシンドロームの診断基準を定めました。その診断基準は、内臓脂肪蓄積の指標である腹囲が男性で 85cm以上、女性で 90cm以上、となっています。この数値は、日本肥満学会が肥満症を定義する際に、内臓脂肪が 100cm2に相当する腹囲として決めたものを採用した経緯があります。以来、メタボは国民に広く知られるようになり、 2008年にはメタボリック症候群に着目した特定健診・特定保健指導が始まったことも、このような医学的裏付けによります。

 世の中ではまたもや首相が変わり、震災復興もままならない昨今、自信喪失気味の日本がまだまだ誇れるのが医療。日本人は世界一の健康長寿であり、 WHOも日本の医療を高く評価しています。とは言えど、医療費は年々ウナギ登り。 2010年国民1人当たりの医療費は 28万7千円と発表されました。「やっぱり日本の医療費は高い」のかな?、と思ってしまいますが、国民所得に対する医療費の割合は約9%、先進国の中では最も低率です。しかし問題はこの先。更なる医療費抑制を心掛けるためには、特定健診・特定保健指導要項にも盛られているように、一人一人の一次予防が武器となります。太っているだけで病気になるといっても過言ではない現代人にとって、適度な脂肪を身にまとうことにより、アンチエイジングも経済効果も、共に手中に収めようではありませんか。

 「言うは易く、行うは難し」・・・生活習慣病といわれる所以がそこにあります・・・ 

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