〜“インフルエンザと闘い続ける”ということ〜 ●健康シリーズ・・・・・本間 真紀子(本間医院 院長) |
インフルエンザH5N1ウイルスを5箇所変異させたら、フェレット(イタチ科に属する肉食性の哺乳小動物)に感染しやすくなった…、先日サイエンス誌に投稿されたオランダの論文です。テロリストがこの論文を青写真に遺伝子操作を加えたらバイオテロを起こす可能性があるのではないか、はたまた培養して漏れ出してしまったらかつてのソ連型パンデミックの再現ではないか、専門家からそんな懸念がでているほど、インフルエンザパンデミックは人類にとって驚異的な出来事なのです。 1968年香港型インフルエンザの世界的大流行後、約40年が経過して時は2009年、新型インフルエンザ(H1N12009)が猛威をふるったのは皆様の記憶に新しいことと思います。その新型ウイルスもWHOが2010年8月10日(日本は8月27日)にポストパンデミックを発表しました。人々はワクチンの関心も薄れ、マスクを見かけることもないまま、平穏な年の瀬が過ぎようとしていました。そんな中、2010年10月下旬から11月上旬にかけて北秋田市鷹巣病院で高齢者6人がA香港型インフルエンザ院内感染で亡くなるというショッキング出来事が全国版ニュースで報道されました。 ウイルス遺伝子の進化速度は、一般にヒトの数百万倍といわれております。つまり人類が猿人から今の姿に進化するのに必要な時間は、ウイルスにすれば数年以下でしかないということは、私たちは新型に続くであろう次のインフルエンザ流行に立ち向かう迅速な傾向と対策を迫られるということなのです。 2009〜2010年のパンデミックの特徴をまとめてみましょう。 例年(季節性)は1月から2月がピークなのに対し、パンデミックは11下旬がピーク。また収束は例年は6月初旬に対し、3月下旬。例年はA香港型(H3N2)・Aソ連型(H1N1)・B型と分散するのに対し、パンデミックは98%が新型(H1N12009)でした。例年の死亡例は高齢者がほとんどに対し、パンデミックは30〜50歳代が中心といったage shiftという現象がありました。家族内においては、例年は乳幼児から同居家族への感染が高率だったのに対し、パンデミックは父母から同居家族への感染が高率でした。そして、日本での人口10万人当たりの死亡数は0.15で、米国3.96、カナダ1.32、メキシコ1.05、ドイ1.31などに比し際だって低い値でした。 次に2010〜2011年のインフルエンザも特徴がありました。 新型インフルエンザを含めてここ数年インフルエンザにかかったことがない人の罹患率が約3/4に及んだこと。特に前年流行の中心だった中学・高校生にほとんど発生せず、逆に感染が少なかった若年成人の罹患率が多く、65才以降の高齢者は前年同様極端に少ないという現状でした。このように、人類とウイルスは常に仁義なき戦いを繰り返し、相手の出方を伺いつつその裏をかいていくといった、延々と続く攻防戦を繰り返しているのです。以前からインフルエンザに関わる専門家らは、パンデミックは必ずやってくると確信していました。そんな折り、今回のパンデミック2009が現実化した事実こそが「次も必ず起こる」ことの証明になりました。対策のキーワードは、ワクチン接種と抗ウイルス薬です。 ワクチン接種は、あくまで集団接種であるべきです。ここにおもしろい取り組みをご紹介しましょう。 米国シカゴのオヘア国際空港は、世界で初めて公共の場所に自動体外式除細動器(AED)を設置した空港として有名です。最近は日本でも多くの公共施設にAEDが設置されることになり、さすがに注目度は下がりましたが、変わっての最近の医療トレンドとして話題になっているのが、空港ターミナル通路のインフルエンザワクチン接種カウンターです。同空港では、以前から国内線ターミナルの中の救護室でインフルエンザワクチンの接種を受け付けておりましたが、メインコースに出店してからの需要は5.6倍に跳ね上がったとか。回りの人のためにも接種率を上げる試みの1つと言えるかもしれません。また地域差が大きいワクチン接種の費用助成といった、財源の確保も重要です。それにしても現状の3価ワクチンではすべての型のインフルエンザには効果を発揮しないため、近い将来ユニバーサルワクチンの開発が待たれます。このワクチンは、変化しやすい傘の部分ではなく変化しない幹の部分を認識し、ウイルス変異にかかわらず有効性を保つという特徴があるため、実用化により一生に1度のワクチン接種でインフルエンザが予防できる時代も近いかもしれません。 でも不運にもインフルエンザに罹ってしまったら…、最も効果的なのが抗ウイルス薬による早期治療です。世の中では、副作用などを懸念するあまり、その重要性が薄れているようですが、2009年9月日本感染症学会は、すべての患者に早期から抗ウイルス薬を投与すべきとする診療ガイドラインを発表しました。昨今、日本では、インフルエンザに罹っても、たまに小児や高齢者が入院する程度の病気だという認識が広がってきており、インフルエンザが重い病気だという現実が薄れてきてしまっているように思います。しかし、実際には、抗ウイルス薬を用いた早期治療により、軽い病気のように見えているだけなのです。パンデミックの際、日本の死亡率が米国の1/24だったのは、世界的には抗ウイルス薬の早期治療の成果と高く評価されており、日本が世界に誇れる医療レベルと言えましょう。 実際には飲み薬・吸入・注射といった4種類のお薬があります。それぞれに特徴がありますので、医師によくご相談下さい。 最後に基本中の基本をおさらいです。 インフルエンザウイルスは、飛沫感染です。咳やくしゃみの際に飛び出す大きな飛沫が感染源ですから、咳エチケットの大切さを改めて認識したいものです。またマスクも必要ですが、使用には工夫が必要です。マスクは咳によって飛沫が飛散しないようにするために咳エチケットとしてインフルエンザに罹った人が着用したときの効果は期待できますが、健康な人が感染予防としてマスクを装着した場合の効果は限定的といわれています。それは、顔とマスクの隙間は空気の抵抗が少ないため、飛沫を含んでいるかもしれない多くの空気がフィルターを通過しないで、その隙間から吸い込まれるからです。そのため、隙間の少ないマスクを選んだり、お互いマスクをし合い、なおいっそう罹った人との接触機会を減らす心掛けも大事です。 おわりに、過去10年間の当院インフルエンザ状況をグラフにしてみました。“自分だけは決して罹らないと高を括ることはできない病気”、だとお分かり頂けましたでしょうか。 |
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関連の講話をご紹介します。 〜内部サイトへリンク〜 | 内 容 | 外部リンク |
● 父、武見太郎と、人間の安全保障・・・武見敬三氏 平成18年9月8日 収録 1時間28分19秒 リアルファイル 及び メディアファイル |
曽て、父武見太郎は医学会におきまして、永年「生命科学(ライフサイエンス)の確立を訴え、今、私は政界におきまして「人間の安全保障」の構築を目指しております。父を語り、私の考えを訴えたく思っております。 | 武見敬三氏のオフィシャルサイトへ |
● 国際医療、保健協力からアジアを考える・・・岡ア 勲氏 平成17年10月7日 収録 1時間25分2秒 リアルファイルのみ |
慶応大学内科講師を経て、産業医学大学短期大学教授。その後、慶応大学医学部衛生学助教授から平成四年東海大学医学部教授、現在に至る。 WHO西太平洋地域事務局、JICAの支援を受け、「東海大学WHO協力、JICA支援 二十一世紀保健指導者養成コース」責任者を務め、平成八年より毎年一回開催し、本年第十回を開催する。既にアジア開発途上国保健省幹部百名を排出しており、その方々との議論から、これからのアジアの医療・保健から安全保障を皆様と一緒に考えたい。 |
岡ア 勲氏のホームページへ |
さあ 今日一日が始まる・・・テレビの天気予報が窓に映り・・・ |