〜“眠る”ということ〜

●健康シリーズ・・・・・本間 真紀子(本間医院 院長)

 スタンレー・コレンは著書睡眠不足は危険がいっぱいの中で、エジソンの呪い(第章)≠ニ題して、睡眠の非生産性の宣伝に成功したエジソンについて語っています。エジソンは4〜5時間以上の眠りは不必要と考え、残りの時間を創造的活動に利用すべきと考えました。
 彼は1913年に実用に耐えうるタングステン・フィラメントコイルと不活性ガスを充填した電球を発明し、その後の世の中は、期待通りに夜間が明るくなりました。その結果、人間の夜間の活動が増加するとともに睡眠時間が減少し、それ以前の平均9時間程度の睡眠時間に対して、最近では約7時間弱と、概日リズムが大幅に様変わりしています。そのような背景のもと、日本医療データセンターの統計によれば、2055年の推定人口3割減に対して、逆に現時点よりも患者数が増えると予想される疾患の1つ、それが「不眠症」なのです。
 今回は、睡眠の量と質の両面からの不眠こそが、現代病の根源であることをお話したいと思います。

 2009年高血圧症治療ガイドラインに、食事療法、運動療法、と併せて、睡眠習慣(睡眠の質と量)、という項目が新たに追加されました。様々な研究で、不眠が高血圧症や糖尿病、肥満のリスクに関連すること、また逆に高血圧症や糖尿病の患者さんで不眠の割合が高いことが示されています。実際、高血圧症の50%、糖尿病の60%の方が不眠症だったという報告や、睡眠5時間以下ではメタボリスクが増加したという報告もあります。他方「24時間社会」といわれる現在、概日リズムが後退している若者、海外旅行や出張で時差ボケの方、交代勤務などの一見健康な人、にも不眠の波が押し寄せています。また、長時間労働とも関連している可能性のある・寝床に入っている時間が極端に短い人も、例外に漏れず不眠の危機にさらされています。つまり不眠の上に、長時間労働により睡眠時間が十分確保できず睡眠不足に拍車がかかる、これが現代の抱える問題点と言えます。

 肥満と不眠症の関係を例にとってみましょう。

 不眠は、摂食促進物質であるグレリン(ホルモン)を増加させ、摂食抑制物質であるレプチン(ホルモン)を低下させるという研究成果があります。その際、睡眠時間が6時間を割るとその傾向に拍車がかかるといわれます。同時に不眠は日中の覇気が低下する結果、生活習慣病予防の支柱である運動する意欲をも低下させると言われています。肥満は睡眠時無呼吸症候群のリスクも増加させます。

 起床時に頭痛や熟睡感がないと思ったことはありませんか?
 昼間の眠気が異常に強いことはありませんか?
 夜間のいびきや呼吸が止まっていることを指摘されたことはありませんか?


 睡眠時無呼吸症候群は、1晩(7時間)の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上おこる、または、睡眠1時間あたり5回以上おこる状態で、厚生労働省では睡眠1時間あたりの無呼吸が20回以上おこる場合では、5年後の生存率は84%(5年後の死亡率は16%)と報告しています。呼吸が止まったあとには過呼吸が続き、その際に生じた活性酸素により血管傷害をきたし、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの病気のリスクにもなるのです。更にこの病態は、血栓を作ることで脳卒中を引き起こす「発作性心房細動」も問題となっており、CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)に加えて、最近ではASV(マスク式人工呼吸器)といった治療法も導入されつつあります。

 イネ科の季節になって、風邪やアレルギーによる鼻炎・喘息症状が増えてきました。老若男女問わず鼻水・鼻詰まりや、体がかゆいと悩んでいる方も多いと思います。ちょっと我慢すれば大丈夫と思っている方も、実は、すべて夜間の睡眠障害を引き起こしているのです。

 もちろん、現代病であるストレスが不眠の主軸をなすことは言うまでもなく、中にはうつ病、むずむず脚症候群ナルコレプシー、特発性過眠症など、専門治療を必要とする精神神経疾患がかくされている可能性もあります。

 不眠対策として、海外、特にスペインやベルギーでは不眠の病院受診率が49%と高率な反面、日本では8%と少数で、代わりに寝酒が30%と最も多く、市販の睡眠薬が15%、その他カフェインを押さえる等々、が続きます。 寝酒の意味を考えてみましょう。
 実はアルコールは肝臓で3〜4時間で代謝されてしまうので、その後は中途覚醒してしまいます。宴会で遅く帰ったにもかかわらず早朝に目覚め、それ以降眠れない経験をお持ちの方も多いと思います。その結果、睡眠を維持するために酒がどんどん増えてしまいます。カロリーオーバーからのメタボという副産物も、前述のような更なる悪循環を招きます。

 治療法としては、ストレスの解消、昼間に光をしっかり浴びて生活リズムにメリハリをつけ、さらに規則正しい食事・運動といった生活習慣改善が基本となります。しかし中には薬物療法が必要な場合もあります。従来からの「疲れたから眠るしくみ=恒常性維持機構」:脳に疲れがたまってくると、脳の機能が低下し、しっかり起きていられなくなり、眠くなります。睡眠不足で眠くなるのはこのしくみのためで、脳の働きを抑えて眠りへ導くのが「従来の睡眠薬」でした。

 最近では、「夜になると眠るしくみ=体内時計機構」:人間には体内時計があり、夜になると体と心を昼の活動の状態から夜の休息の状態に切り替えて、自然な眠りへ導くようリズムを刻んでおり、メラトニンというホルモンが、このしくみに関わっています。メラトニン受容体に作用して、体を活動から休息の状態へ切り替えることで、鎮静作用によらない眠りへ導く「新しい睡眠薬」が、不眠症治療の選択肢として加わりました。
 適応は早期の軽症不眠症です。副作用が少ないとされている点で、お年寄りの方や睡眠時無呼吸症候群などの基礎疾患を持つ方にも比較的安全と考えられています。

「人生、3分の1は布団の中」、寝苦しい夏に向かって、ご自身で日頃の睡眠の質と量を考えるよい機会にしてみませんか?睡眠というハードルをクリアーした時、より元気で、より人生に余力が生まれること請け合いですよ。

 起床時に頭痛や熟睡感がないと思ったことはありませんか? 昼間の眠気が異常に強いことはありませんか? 夜間のいびきや呼吸が止まっていることを指摘されたことはありませんか? 

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