日蓮宗信行教典
 仏教や日蓮宗の教えをわかりやすく書いたものがほしい、日々のくらしの中で活用できるような信仰の書がもっと必要なのではないか、という声をよく耳にします。
 たしかに、仏教の本はむずかしく書かれたものが多く、加えて仏教特有の言葉や用語もたくさんあるため、読んでも意味がわたりにくいという傾向にあります。
 しかし、本来、仏教は苦しみや悩みを乗り越えて、よりよく生きるためのささえや指針を与える教えなのです。信仰とは、苦楽を分かち合い、困難にくじけないで、みなともに幸福と平安をなしとげていく人生の道をきり開き、み仏と同じような智慧と慈悲の心をもっていきぬいていく志を持ち続けることである、といえます。
 一見難しそうに思えるお経の文字や仏教の言葉をよく読み、深く知っていくならば、そこに生きとし生けるものを導こうとしているみ仏の限りなく深い慈しみの眼に自分が見つめられ、救いの心が注がれていることを見出すことができます。
 この『日蓮宗信行教典』はこうしたみ仏の魂にふれながら、み仏の智慧と慈悲を心に刻むための信行の手引書としてまとめたものです。み仏を信ずる心とは、み仏の教えに従って生き、説かれたように実行することでもあります。み仏の道は、信をもって根本とし、行と学によって教えを身につけ、心の田にみ仏の種をうえることが大切です。
 日蓮宗の信行は、宗祖日蓮聖人に導かれながら、本仏であるお釈迦さまの説かれた真実の教え妙法蓮華経(法華経)を信じ、南無妙法蓮華経とお題目を唱えて、法華経に帰依し、行じていくことを基本としいます。法華経と日蓮聖人の教えを信行し、習い学び語り伝え、信じあい助けあいながら、いっしょにみ仏の道を求めていくことは、日蓮宗の信徒のつとめであり、善根功徳をこの世にしるしとどめることにもなるのです。
 この『日蓮宗信行教典』には、日蓮宗の信徒としてなすべき信行の内容と心得がおさめられております。信徒の誓い、生活信条と勤行(ごんぎょう)の心得にもとづいて信行の内容と意義をよくつかみ、勤行の次第順序に従って信行に励み、現代語に訳した法華経の経文と日蓮聖人のお言葉を生きるためのささえとしつつ、お題目の意味をつかんで一心に素直な気持ちで唱題修行(しょうだいしゅぎょう)につとめてほしい、という願いをこめてまとめました。 〔昭和58年11月8日 石川 教張〕

ここに著者・石川教張先生のご承諾のもと、WEBように編集したものであります。徐々に完成させて参ります。
どうぞ、ご活用くださいますよう。




信行の心がまえ
信徒の誓い
一、わたしたちは、日蓮宗の信徒として、本仏釈尊の説かれた真実のみ教えである法華経を信じ、南無妙法蓮華経とお唱えして、一心に信仰の道にはげむことを誓います。
一、わたしたちは、日蓮宗の信徒として、宗祖日蓮聖人のみ教えに導かれ、どんな困難にもまけず、現世の安穏と未来の救いがかなえられるよう祈りをささげ、世界の平和とすべての人びとの幸せをめざして精進することを誓います。
一、わたしたちは、日蓮宗の信徒として、法華経と日蓮聖人の信仰をすべての人びとに語り伝え、菩提寺を護り、先祖への供養と朝夕の信行につとめることを誓います。
生活信条
一、ひとりよがりやうぬぼれをなくし、喜びも苦しみや悩みもわかちあい、どんな困難にもひるまずに、信じあい、助けあっていこう。
二、いつくしみあい、いたわりあい、ともに力を合わせて、明るく楽しい家庭をきずいていこう。
三、先祖への感謝を忘れず、つねに供養をささげ、菩提寺へのお参りと朝夕の信行にはげんでいこう。
四、すべての人の幸せと平和な社会を実現していくために努力していこう。
五、み仏の教えを学び行い、日蓮聖人に導かれて、すこしでも自分を高め、人びとのためにつくしていこう。

勤行の心得
日蓮宗の勤行
 勤行とは、ふつう「おつとめ」というように、朝夕を中心に、いついかなる時と所においても、仏の教えを信じ行い、合掌礼拝し、お経を読み、供養をささげることにつとめはげむことをいいます。
 日蓮宗の勤行は、法華経のお題目すなわち南無妙法蓮華経とお唱えすること(唱題)と法華経の経文のなかの主要なところを声をだして読みあげること(読誦)を中心に行います。
勤行の心がまえ
お経とは、ただひとりの仏であるお釈迦さまの説かれた教えのことです。
お釈迦さまの悟りの心をしるしたものが、お経のひとつひとつの文字です。
お経の文字は、お釈迦さまのみ心をあわらしたものです。
 お経のなかで、お釈迦さまがほんとうの心をご自身で説きあかされたのが、法華経です。法華経は、正式な名を妙法蓮華経といいます。法華経を命をささげて信じてゆく決意をあらわすことが南無妙法蓮華経とお唱えすることです。この法華経のお題目をお唱えし、その経文を読むことはもっともすぐれた法華経を信じ、法華経に示されたみ仏の智慧と慈悲を身につけて、法華経の救いをすべての人びとにひろめていこうという誓いと願いをあらわすことです。
 法華経に説かれたみ仏の言葉に従って生きていくことを念じ、これまで法華経とみ仏の縁に結ばれてきた先祖の人びとをはじめ、家族・親族やいっさいの人びとが安穏にくらし仏となって慈悲の心をもつよう、一心に祈りをこめて、朝夕の勤行につとめはげむことが大切です。
 仏法僧の三宝ならびにご本尊に対し、また朝夕仏壇に向かってご供養するときは、まず顔や手などを洗い浄め、「世間の法に染まらないことは蓮華の水にあるように、この身を清浄にして法華経を信じたもちます」と念じます。
 次に、「み仏にお花をささげます。すべての人びとが、この花のように浄らかになるように」と祈りながら、献華をします。
 さらに、「仏法僧の三宝ならびに有縁無縁いっさいの人びとに供養します。飢え、渇きをとりのぞき心は浄らかになるように」と願いながら、お供物とお茶をささげます。
 同時に、お灯明をささげます。このときには「み仏の眼のように、すべてを明るく照らして、この世と人びとの煩悩のくらやみをなくしていきます」と誓いながら献灯し、お線香をつけ、またお焼香をいたします。
勤行の作法
ご本尊ならびに仏壇に向かって正座をし、心をおちつけたのち、次の順序で信行をいたします。
合掌・礼拝
道場偈 この場所にみ仏がすがたをあらわしてくださることを念ずる。
三帰依 仏法僧の三宝に帰依の心をささげる。
三宝礼 仏法僧のうち、とくに釈迦牟尼仏・法華経・日蓮大菩薩の三宝に帰依する。
開経偈 法華経を読む功徳をほめたたえる。
方便品 み仏の限りなく深い智慧を信じ、身につけることを願って読む。
欲令衆 み仏の智慧を心に刻み、み仏の救いと守護を念じつつ読む。
自我偈 み仏の永遠で滅することのない慈悲にふれみ仏になることを誓いつつ読む。
神力偈 み仏の教えを体して法華経をいつまでも信じ行うことを心に刻みつつ読む。
唱題 一心にお題目をお唱えして法華経を信じ行う誓いをあらわす。
宝塔偈 どんな困難があろうとも法華経の信心をつらぬいていく決意をこめて読む。
御遺文拝読 日蓮聖人のみ教えに導かれて信心の道を歩んでいく誓いをこめて、日蓮聖人のお言葉の一節をお唱えする。
祈りの言葉 ご本尊ならびに三宝に祈りをささげ、ご本尊と三宝に護られて信心に励み先祖への菩提と家内安全・子孫長久・世界平和などを祈願する。
四弘誓願 み仏の教えを信じ・学び・行い・ひろめる四つの誓いをあらわし、三宝に信心をつらぬいていくことを誓う。
唱題三唱 お題目を三辺となえる。お寺でいとなまれる法要のときには、本堂の出入りには必ず合掌し、さらに導師の指示に従って、お経を読み、お題目をお唱えすること。


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