【立正安国論の基礎】 講演資料



                             庵 谷 行 亨


 1、述作
   正嘉元年(一二五七)着手(聖寿三六歳)
   文応元年(一二六〇)脱稿(聖寿三九歳)
    文応元年七月一六日、前執権最明寺入道時頼に上進。
 2、述作地
    相模国鎌倉松葉谷の草庵
 3、真蹟
   @中山法華経寺蔵
     文永六年(一二六九) 十二月八日に書写し、ハ木式部大夫胤家に授与。
     全三六紙(第二四紙は、慶長六年十一月六日、日通が身延本を書写して
     補足)。
     日蓮聖人の署名は無い。
     『日蓮聖人真蹟集成』第二巻所収。『昭和定本日蓮聖人遺文』二〇九頁。
   A身延山久遠寺曾存
     全二○紙完。明治八年(一八七五)焼失。
     身延山久遠寺第二ー世日乾の書写本、京都本満寺蔵。
      中山法華経寺本と同じ。
   B京都本圀寺蔵
     無記年。建治・弘安の交の頃の筆か。弘安元年(一二七八)か。
     全二四紙完。
      「沙門日蓮勘」とある。
     中山法華経寺本にない真言批判の文がある。
     『日蓮聖人真蹟集成』第一巻所収。『昭和定本日蓮聖人遺文』一四五五頁。
   C真間切損本
     『高祖年譜』の記載。
       散逸。
   D断片一四紙
     文永初期の筆か。
     各所に散在。
      京都妙覚寺・新潟県本成寺・千葉県妙興寺・京都本圀寺・長崎県本経
      寺・愛知県聖運寺・京都木満寺・福井県平等会寺・千葉県善勝寺・他
       『日蓮聖人真蹟集成』第四巻所収。
 4、述作の直接的動機
    社会的背景
     正嘉の大地震(正嘉元年八月二三日)。
     天変地異。社会不安。
      諸遺文に記述されている。
 5、対告者
    前執権最明寺入道時頼。
     日本国の主権者。
 6、勘文
    私的勘文
 7、文体
    四六駢儷体。問答体(九問十答)。
 8、構成
    第一問答 国難の原因を示す。
    第二問答 国難の原因を証す。
    第三問答 謗法の実在を証す。
    第四問答 謗法の人法を出す。 
    第五問答 国難の原因を決す。
    第六問答 上進の可否を決す。
    第七問答 国難の対治を証す。
    第ハ問答 謗法の禁断を決す。
    第九問答 謗法の対治と正法への帰依を勧む。
    第十番  謗法の対治を領解す。
 9、破邪の対象
    主に法然浄土教。
    禅宗。他(真言宗・律宗)。
10、題号
    立正安国
     正法を立てて国家人民の安穏安寧を実現する。
    立正
     正法を立てる。実乗之一善に帰す。
    安国
     国家の安寧。衆生の安穏。仏国・宝土の実現。
11、大要
    災難の原因究明と謗法の退治。
    「実乗之一善」への帰入。立正安国の実現。
12、上進後の経緯
    『立正安国論』は黙殺。
    八月二七日松葉谷草庵夜襲。
13、関連遺文
    『守護国家論』。『災難興起由来』。『災難対治紗』。『安国論副状』。
    『安国論御勘由来』。『宿屋入道許御状』。『安国論奥書』。
    『法門可被申様之事』。『金吾殿御返事』。『一昨日御書』。『開目抄』。
    『安国論送状』。『種種御振舞御書』。『撰時抄』。『阿仏房尼御前御返事』。
    『清澄寺大衆中』。『下山御消息』。『本尊問答鈔』。他。
14、遺文上の位置
   最重要遺文。三大部のー。五大部のー。
15、述作の思想的基盤
   @法然浄上教批判
    『守護国家論』との関連。爾前無得道・諸宗無得道。
   A災難続出の原因究明と退治の方法
     諸遺文の記述。『吾妻鏡』の記述。「落書」の記述。
     善神捨国。
     立正安国。法華正法。
   B仏教と政治
     仏法と王法。仏法為本。
16、写本(主な写本)
   @日興写本
    「天台沙門日蓮勘之」とある。
      玉沢妙法華寺蔵。
   A日興写本
     富士宮大石寺蔵。
   B日向写本
     身延山久遠寺蔵。
   C伝日朗写本
     鎌倉安国論寺蔵。
   D日高写本
     中山法華経寺蔵。
   E日法写本
     岡宮光長寺蔵。
   F日祐写本
     千葉県多古正覚寺蔵。
   G三位日進写本
     鎌倉妙本寺蔵。
   H日源写本
     北山本門寺蔵。
   I日弁写本
     多古妙興寺蔵。
     『天台沙門日蓮勘之」とある。
   J日通写本
     京都本法寺蔵。
   K日乾写本
     京都本満寺蔵。
   L他
17、目録(主な目録)
   @日常『常修院本尊聖教事』定本二七三一頁。
     「並具書三通有之」とある。
   A日祐『本尊聖教録』定本二七三六頁。
      「道生状一紙」とある。
       同二七四〇頁。
        「大学三郎ノ筆」とある。
       同二七四〇頁。
        「並再治本一帖」とある。
   B日乾『身延山久遠寺御霊宝記録』定本二七四七頁。
     「御正本二十紙 合題号四百一行 奥書云文應元年太歳庚申勘之」とあ
     る。
   C日亨『西土蔵賓物録』定本二七五六頁。
   D他
18、門下の諌暁活動
    申状に『立正安国論』を添付。
    日昭・日朗・日興・日向・日頂・日弁・日高・日像・日目・目代・日道
    ・日什・他。
19、『立正安国論』の意義
   @国家諌暁
     法華経の社会の実現。国土の成仏。
     仏の諌勅。法華経の行者の使命。
   A日蓮聖人の歴史への登場
     日本国の歴史と日蓮聖人。世界の歴史と日蓮聖人。
   B日蓮聖人の信仰の公表
     「実乗之一善」。法華実教の提示。
   C日蓮聖人の宗教的理想の標榜
     立正安国。仏国土の実現。一切衆生の成仏。現世安穏後生善処。
   D日蓮聖人の宗教者としての自覚と使命
     法華経者。法華経の行者。仏使。本化。末法の導師(本化上行)。
   E日蓮聖人の宗教者としての課題
     宗教と国家。仏法と王法。法華経と社会。
     正法と邪法(破邪顕正・公場対決・諸宗批判・呵責謗法)。
     釈尊の御真意の顕証。
     釈尊の御意の実現。真実の救い。
   F他国侵逼難・自界叛逆難の予言
     仏の未来記。仏の教えと歴史社会。
   G謗法止施
     謗法者への布施の禁断。謗法呵責。弘経の方軌。
   H謗法招災
     災害と信仰。自然災害と正法。災害の興起と正法の盛衰。謗法者充満と
     災難の興起。善神捨国・悪鬼来入。
   I災難興起と地涌の出現
     天変地異は地涌出現の前兆。
   J正法弘通と値難
     値難の体験。値難色読。値難は法華経の行者の証。値難滅罪。値難成仏。
20、臨終時の講義
    日朝『元祖化導記』
21、『立正安国論』の精神
   @立正安国
      釈尊世界の実現。浄土の顕現。真実世界の実現。
     立正
      正法を立てる。破邪顕正。
     安国
      衆生成仏。国土成仏。永遠不滅の浄土。
   A一念三千と立正安国
     一念三千は依正不二。
      一念三千の成仏とは依正の成仏。衆生成仏・国土成仏。
     一念三千=本時娑婆世界=立正安国。
     一念三千=国家諌暁=『立正安国論』の上進。
   B題目受持と立正安国
     題目は釈尊の真実。題目は釈尊の御魂。題目は釈尊の因果の功徳。題目
     は釈尊の肝心の教え。
     題目受持=立正安国の実現。
   C三大誓願と立正安国
     日蓮聖人の三大誓願は釈尊の本願の継承。
     三大誓願=立正安国の誓願。
   D法華経の行者と立正安国
     法華経の行者=立正安国実現の責任者。釈尊からの使命を帯びた者。
   E三大秘法と立正安国
     三大秘法=立正安国実現の具体的宗旨。
     「実乗之一善」は一大秘法に結実し、三大秘法に開出される。


       ※ 以上、講義『立正安国論の基礎』 ー配布資料ー



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