日蓮宗山形県宗務所 主催 公開講座

『立正安国論』に学ぶ(レジュメ)

平成17年9月16日 於 山形市 山形グランドホテル
 立正大学 北川 前肇

一、 何故、仏教者である日蓮聖人(1222〜82)は、『立正安国論』を鎌倉幕府に奏進されたのでしょうか。

 (1)『立正安国論』は、私的「勘文(かんもん)」として、鎌倉幕府に差し出されたものである。
 (2)文応元(1260)年7月16日、宿谷入道を仲介として、前執権北条時頼(1227〜63)に進覧された。
   1 「文応元年太歳庚申七月十六日を以て、宿谷の禅門に付して、故最明寺入道殿に奉れり。」
                                   (原漢文・『安国論奥書』昭和定本 442〜3ページ)
   2 「文応元年庚申七月十六日辰の時、屋戸野の入道に付して、古最明寺入道殿に奏進し了んぬ。」
                                  (原漢文・『安国論御勘由来』・昭和定本 422ページ)
   *北条時頼は、一二五六(康元元年)病気となり、十一月二十二日執権職を退き、翌日最明寺で出家。
     このことから、聖人は時頼のことを最明寺入道殿と呼称される。

二、 日蓮聖人の『立正安国論』執筆の目的

 (1)打ちつづく災難によって、多くの民が飢餓や疫病に襲われ、そのことによって死に至っている。その不幸な
    状況から脱却させ安穏な社会をもたらすことを祈りとして、執筆されたものである。
   1 「正嘉元年太歳丁巳八月二十三日戌亥の時、前代に超えたる大地震。同二年戊午八月一日大風。
     同三年己未大飢饉。正元元年己未大疫病。同二年庚申四季に亘って大疫已まず。万民既に大半に
     超えて死を招き了んぬ。」
                                   (原漢文・『安国論御勘由来』・昭和定本 421ページ)
 (2)国土が安らかになることによって、人々に真の平和がもたらされる。
   1 「此れ偏に国土の恩を報ぜんが為なり。」
                                   (原漢文・『安国論御勘由来』・昭和定本 422ページ)
   2 「但をほけなく国土までとこそ、をもひて候へども、我と用ひられぬ世なれば力及ばず。」
                                   (『転重軽受法門』・昭和定本 508ページ)

三、 日蓮聖人は、私たち個々人(五蘊世間)の存在を、すべての人々(衆生世間)との関係性、さらには国土
   世間との関係性のうえで捉えられ、これらを分断されてはいない。


   1 「仏法を学せん人、知恩報恩なかるべしや。仏弟子は必ず四恩をしって知恩報恩をほうずべし。」
                                   (『開目抄』・昭和定本 544ページ)
   2 「仏教をならはん者の、父母・師匠・国恩をわするべしや。此の大恩を報ぜんには必ず仏法をならひ
     きはめ、智者とならで叶ふべきか。」
                                   (『報恩抄』・昭和定本 1192ページ)

四、『立正安国論』の構成と大意
  
    序分(序論)
       第一問  災難の由来を問う(旅客来たりて嘆きて曰く)

  第一段
       第一答  災難の由来を答える(主人の曰く、独り此の事を愁へて、胸臆に憤ぴす)

       第二問  災難由来の経証を求める
               (客の曰く、天下の災、国中の難、余独り嘆くのみに非ず、衆皆非めり)
  第二段
       第二答  災難由来の経証を示す(主人の曰く、其の文繁多にして、其の証弘博なり)

       第三問  謗法の事実を疑う(客 色を作して曰く)
  第三段
       第三答  謗法の事実を示す(主人喩して曰く)

       第四問  謗法の人と謗法の教法を求める(客猶憤りて曰く)
  第四段
       第四答  謗法の人と謗法の教法を示す(主人の曰く)

       第五問  法然の謗法を疑う(客 殊に色を作して曰く)
  第五段
       第五答  災難の原因を決す(主人咲み、止めて曰く)

       第六問  奏上の否を説く(客 聊か和らぎて曰く)
  第六段
       第六答  奏上の必要を説く(主人の曰く、予少量たりと雖も、忝くも大乗を学す)

       第七問  災難の対治を問う(客則ち和らぎて曰く)
  第七段
       第七答  災難の対治を答える(主人の曰く、余は是れ玩愚にして、敢えて賢を存せず)

       第八問  謗法の禁断を疑う(客の曰く)
  第八段
       第八答  謗法の禁断を決す(主人の曰く)

   正宗分(本論)
       第九問  謗法の対治をすすめる(客則ち席を避け、襟を刷ひて曰く)
  第九段
       第九答  正法への帰依をすすめる(主人 悦びて曰く)

   流通分(結論)

  第十段 第十問 謗法の対治を領解する(客の曰く、今生後生、誰か慎まざらん)

五、日蓮聖人は自己自身への法難を覚悟されつつ、仏弟子として、法華経の行者としての生涯をまっとう
   された。


                                                                以上


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