講話資料 「調えることの大切さを見直そう」

平成17年2月4日 講師 早水 日秀

優陀那院日輝和上と充洽園

 江戸末期の宗学者・優陀那日輝(うだなにちき) 寛政十二年〜安政六年(1800〜1859)が、天保四年(1833)加賀(石川県)金沢の立像寺内に設立した学舎。日輝は次代の教団をになう人材の育成を心がけ、全国から彼の学徳を慕って集まってくる学徒のために、藩主前田家の援助により、法華経薬草喩品の「其の雨普等にして、四方に倶に下り、(略)率土充洽(そつどじゅうごう)す」から名をとって「充洽園」を創設した。ここで日輝は、常時6、70人はいたという門下生を、行・学ともに厳しく指導し、幕末の動乱期にそなえたのである。後にこの充洽園門下が、明治維新の時代の転換期にめざましい活躍をし、日蓮宗教団の思想・組織を近代化し、現在の「日蓮宗」の基を作ったのである。教団中興の三師と称せられる日薩・日鑑・日修を頭とした充洽園門下は、師日輝の思想を公にして宗門教学の正統とし、日輝のめざした「時代に適応した教団」作りに励み、成果をあげた。充洽園は、日蓮宗の近代の出発点と見ることが出来る。

充洽園礼誦儀記

 優陀那日輝の著。日夜朝夕に行う礼拝、読誦の行軌についての指南書であって、しかも一一の行(事相)についてその意味するところ(理観)を述べて「初学の子弟に便ならしめん」としたものである。内容の大綱は五方便「(1)定立本尊、(2)厳浄道場、(3)浄身整衣、(4)供養香華、(5)きん磬調節」十正修(じっしょうしゅう)「(1)勧請、(2)礼拝、(3)讃嘆、(4)読誦、(5)運想、(6)唱題、(7)回向、(8)発願、(9)三帰、(10)奉送」であるが、これが宗定法要式の行軌作法篇の骨格をなしており、また日蓮宗の勤行をはじめ諸種法要の土台となっている。

五方便

一、定立本尊(じょうりゅうほんぞん) 「十界の大曼荼羅は観心の本尊なり。必定してこの本尊を安立すべし」
二、厳浄道場(じょうごんどうじょう) 「芥屑を掃除し、塵垢を灑浄し、光飾荘厳し法器を布置し、道場を清浄ならしむるなり。道場厳浄ならざれば道心尊重なり難し。道場を厳浄することは本地の仏土を光顕せんが為なり。」
三、浄身整衣(じょうしんしょうえ) 「身口の垢穢を洗浄し、仏祖伝信の法衣・大良福田の袈裟を著し、威儀整斉ならしむるなり。色身潔浄ならざれば心思高上ならず。君子重からざれば則ち威ならずという是なり。心性を清浄ならしめ、法理を光顕し、如来の荘厳を成就せんと欲する故に浄身整衣をなす。」
四、供養香華(くようこうげ) 「諸の供養物の中に、香・花・灯明の三、最も心気を資け、道念を補養するものなり。その餘、茶・果・肴膳、いずれにても行者の受用するもの、粗妙を選ばず随時供養すべし。
五、きん磬調節(きんけいちょうせつ) 「鐘・鼓・きん・磬等は事の始めを報じ、終わりを達し、気を通じ情を和し、声を補い、曲折を調うる仏家の法器世外の樂具なり。行者を怡悦せしめ物類を感動する勝能あれども、これを鼓すること粗暴不律なる時は却って能を損し、害を生ず・・・」


 江戸の賢者の知恵「江戸しぐさ」

 大事なものをみんなの共有物と考え、相手を尊重し思いやる心。江戸しぐさには21世紀を快適に生きるためのヒントが詰ま っています。

1,忙しい、忙しいと言うな
   忙しいとは心を亡くすこと、決して自慢できることではない

2,そんなに偉いかたとは知らずに言うな
   偉くない人には無礼をしても良いのか

3,知ったかぶりをするな、見てわかる事を聞くな
   知らないなら知らないと言った方が良い

4,人の話を真剣に聞くときにメモをとるな
   メモを取ると話す人の気が散る、聞く人の真剣味が減る

5,自分と違う意見をないがしろにするな
   意見が違うから参考になる

6,はい、はいと二度返事をするな
   一度目は了解、二度目は迷惑

7,感情を逆撫でする言葉を使うな
   聞く人の気分を害する

8,人の意見を無視する言葉を使うな
   話している人は真剣だ

9,人に行き先をむやみに聞くな
   プライバシーを尊重せよ

10,相手を卑下(見下す)するな、威張るな
    そんなに自分が偉いのか

11,三脱の教え。初対面の人に年齢、職業、地位を聞くな
    聞いて付き合い方を変えるのか

12,人と会っているときに、足組み、腕組みをするな
    自分を誇示する印象を与える

13,紹介者を飛び越えて親密になるな
    紹介していただいたことに感謝せよ

14,打てば響く心意気を持て
    説明しなければわからない輩とは付き合うな

15,何をしてもうわの空の人とは付き合うな
    いつでも真剣勝負、些細なことでもないがしろにするな

16,口先でなく目で人を判断しろ
    表面的な言葉では判断できない、本質を見よ

17,三つ心、六つ躾、九つ言葉、十二文、十五理で末決まる
    
 江戸の稚児の段階的養育法。三歳までに人間の心の糸をしっかり張らせる。六歳までに躾を手取り足取りまねさせる。九歳までに人前でお世辞のひとつも言えるぐらいの挨拶が出来るようにする。十二歳には一家の主の代書が出来るようにする。十五歳で森羅万象が実感として理解できるようにする。

18,突然の訪問、遅刻で人の時泥棒をするな
    時間は大切なもの、自分の時間だけでなく相手の時間も奪っていることに気づけ

19,うかつあやまり。足を踏まれたら、うっかりしてましたと謝れ
    ぼんやりしていて踏まれた側にも責任がある、思いやりの心

20,常に人を思いやれ。傘かしげ、肩引き、こぶし腰浮かせ
    傘かしげ・・・雨のしずくがかからないように、傘をかしげあって気配りをして往来するしぐさ。
    肩引き・・・・狭い道ですれ違うとき、肩を引き合って胸と胸を合わせる格好で通り過ぎるしぐさ。
    こぶし腰浮かせ・・・乗合船で腰の両側にこぶしをついて軽く腰を浮かせ、少しずつ幅を詰めながら一人分の空間を作るしぐさ。


 参考:商人道「江戸しぐさ」の知恵袋 越川禮子著 講談社+α新書 



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